15年以上にわたりラッパーとしてライブや楽曲リリースをしながら、現在ではビートメイクやイベントオーガナイザーとしても活躍中のMinori。
2023年9月にはファーストアルバム『Need Money For Tattoos』をリリースし、2024年からは新たなイベントも始動します。
そんなMinoriさんに、楽曲制作やイベント運営をする上でのこだわりなどをインタビューさせていただきました!
ラッパーMinoriとは?
Minoriの基本情報
1991年生まれ、東京都出身。 幼少期の頃からRUN-DMC・LL Cool J・GrandMasterFlash・DigitalUnderGroundなどオールドスクールヒップホップなどを聴いて育つ。過去には活動を断念しラッパーとして挫折した経験も。一方で表に出さないものの自身でトラック制作を続け、現在では様々なラッパーにビートを提供中。自身でもマイクを握りながらセルフプロデュースもこなし、2023年9月にはファーストアルバム『Need Money For Tattoos』を発売。またクルー「Misstape Records」「TOYBOX」に所属もしており、東京の多摩市を拠点に活動している。
ラッパーとしてのMinori
――ラッパーとしての活動について教えてください!
自分1人で曲やアルバムの制作をしながら、クルー「TOYBOX」「MissTape Records」の一員としても活動しています。
「TOYBOX」は自分が代表を務めているクルーで、ビートメイクとフォトグラファーを担当しています。
――ライブ活動もされているんですか?
高校生の頃が初ライブで今32歳なので、これまでにかなりの数のライブをこなしてきました。
今は自分のイベントでやるくらいで、なんならイベントのためにライブをやっているような感覚ですね。
俺のやりたいことをサポートしてくれる大切な仲間のためにも、良いライブをしなきゃいけないと思って取り組んでいます。
――2023年9月には、ソロアルバム『Need Money For Tattoos』もリリースされていますね。
はい。自分でビートから作った曲もあれば、恩師として慕っているBeatsniperさんのビートを使って録った曲もあります。
「アルバムを出そう!」と思って曲を録っていったというよりは、ある意味「遊び」のような感覚でレコーディングをしていた曲が溜まったので、アルバムにした感じです。
今年中にもう1枚ソロアルバムを出そうと思っていて、今回はドリルビートも含めたアルバムにする予定です!
Minoriのアルバムはこちらから
ビートメイカーとしてのMinori
――自分でラップをしているだけではなく、ビートメイクもされているんですね。
『Need Money For Tattoos』に収録されている曲やクルー「TOYBOX」でのメンバーの曲は自分がビートメイクを担当しているものが多いです。
それだけでなくライブイベントで出会ったラッパーに自作ビートを渡したり、他のビートメイカーから貰ったデータのミックスやマスタリングもやっています。
「Misstape Records」のものは、ブラジル在住のDos Casaというプロデューサーに任せっきりです!(笑)
――すごい…!他にお仕事はされているんですか?
日雇いの仕事とかをしていた時期もありましたが、今現在は一応、ビートメイクやイベント運営で生計を立てています。
自分が影響を受けているUSのラッパーも、自身の曲以外の部分でビジネスをしている人が多くて、そういう生き方がしたいという想いもあって。
――好きなことで生活をして、仲間やシーンに還元されているんですね、素敵です…!
パソコンを持ってサイファーに遊びに行って、自分が作ったビートでみんなにラップをしてもらうのも大好きです。
自分のビートでラップをしてもらえるのは、めちゃくちゃテンションが上がりますね。
イベントオーガナイザーとしてのMinori
――イベントの運営もされているとのことですが、クルーで行っているんですか?
自分が代表を務めている「TOYBOX」でイベントを打っています。
「子供がいる大人でも遊べるイベント」というのを意識していて、ナイトではなく昼間にやってるのが特徴です。
自分みたいに30代の人とか、それ以上になってくると、HIPHOPが好きでもなかなか夜は行けないっていう人が多いので、子供連れでも楽しめるようなイベントにしたくて。
フードも充実していて、カレーとかがっつりしたメニューも出ます!(笑)
――素敵なコンセプトですね!イベント運営をしていて一番やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?
自分が作って渡したビートに最高のラップが乗るのを生で見れるのは、ビートメイカーとして最高の喜びです。
あとは、みんないい顔してライブしてるなって感じる時も、めちゃくちゃ嬉しいですね。
Minoriに楽曲制作やイベントについて質問してみた!
Minoriさんに、以下に関する質問をさせていただきました!
- ラップやビートメイクを始めた経緯
- 活動全般において大切にしていること
- 楽曲制作の際のこだわり
- 影響を受けているアーティストや作品
- イベントオーガナイザーとしての活動について
- 今の日本のHIPHOPシーンについて思うこと
①ラップやビートメイクを始めた経緯
――Minoriさんは、どのような経緯でラップやビートメイクをするようになったんですか?
HIPHOPのレコードやCDが周りに置いてあるような環境で育ったので、自然とたくさん聴いていて。
中学生の頃に友達と一緒にカセットテープでレコーディングをしたのが最初のきっかけでした。
ロックも好きなんですけど、バンドを組んで活動するってなると学生にしてはかなりお金がかかるじゃないですか。
その点HIPHOPは、クオリティはさておき、カセットテープでもレコーディングができちゃうので手を出しやすかったですね。
――そうなんですね。ビートメイクはいつから始められたんですか?
地元が日野なのですが、近くの八王子にHIPHOP系の洋服屋が昔ありまして、そこで今でも恩師として慕っているビートメイカーのBeatsniperさんに偶然出会ったのがきっかけです。
店員もお客さんも外国人が多い店だったんですけど、たまたま日本人がいて、話してみたら「DJやってるよ」「ビートも作ってるよ」って教えてくれて。
当時の自分からすると「ビートって自分で作れるんだ!」って感じで、びっくりしたのを覚えています。
最初はBeatsniperさんのビートを買ってラップを乗せていたんですけど、作ってるところを見せてもらったり教えてもらったりして、22歳の頃には自分でも作るようになりました。
――15年以上前にたまたま服屋で出会った方がきっかけだったんですね。
そうですね、すごく懐かしいです。
Beatsniperさんは、日本国内でトラップビートを作らせたら5本指に入るんじゃないかっていうくらい、めちゃくちゃイケてるビートを作る人なんです。
お酒や煙草を一切やらずに、超真剣に音楽と向き合っている姿勢もリスペクトしています。
ファーストアルバム『Need Money For Tattoos』にもBeatsniperさんのビートを使って録った曲を収録しています。
②活動全般において大切にしていること
――HIPHOPに携わるうえで大切にしていることを教えてください。
音楽をやるうえで一番大切にしているのが「自由でいること」です。
楽曲制作ひとつ取っても、ビートを作るとき・ラップをするとき・MIXをするとき、自由に取り組むことを意識しています。
まずフィールドとして「自由」っていうのがないと何の曲も作れないし、リリックを書くときも凝り固まった書き方はしたくはない。
制作中に「このビート不自由で嫌だな」と思ったら途中で辞めて、他のビート作ろうってなることも全然あります。
――先入観やこだわりを持ち過ぎないようにする、ということですか?
そうですね。
例えば「〇〇のイベントに繋がらなきゃいけない」「HIPHOPはこうじゃなきゃいけない」っていう考えに捉われて、がんじがらめになって不自由に活動するのはもったいないことだなって思います。
――実際に「HIPHOPはこうじゃなきゃ」ということを言っている人は結構いる印象です。
めちゃくちゃいますね。
ただ、シーンにはそういう考えの人も絶対に必要だとは思うんですよ。
自分みたいに自由さを大切にする人も、自我が強くて尖っているような人も、どっちもいるからこそシーンが成り立っているわけで。
それこそ、USにもポップス寄りのラッパーからガラ悪い系のラッパーまでいろいろいるので、海外でも絶対にそういう論争はありますしね。
でも僕自身は「こういう系の曲は苦手」みたいなのは全くないです。
③楽曲制作の際のこだわり
――楽曲制作をするときには、どんなことにこだわっていますか?
さっきお話しした「自由でいること」以外で言うと、リリックを書くときやレコーディングをするときには、とにかくビートの感情を聞くようにしています。
個人的には、ラッパーよりもビートメイカーの方が感情豊かな人が多いんじゃないかなって思うくらい、楽曲を作るときにはビートの感情を聞くことが欠かせません。
ビートを聴き込んで感情や特徴を掴んでいかないと、良い作品はなかなか生まれないと思っています。
自分が尊敬しているビートメイカーたちも、ベースの鳴りだったりスネアやキック1つ1つに対してめちゃくちゃこだわりを持ってる人が多くて。
自分もそこに関しては、今後もこだわっていきたいです。
――ありがとうございます!レコーディングの際はどうでしょうか?
自分は、ラッパーはライブが全てだと思っているので、レコーディングでは「2テイク以上録らない」っていうのを決めています。
ライブってやり直しができないものだから、レコーディングでも2テイク以上録り直してしまったら、それはもうライブとして成り立たないなって。
なので、ライブでそのままできる曲しか作ってないです。
他のラッパーを見ていても、サブスクで聴ける曲がいくらイケてても、ライブがだらしなかったら正直ちょっと嫌ですね。
自分のなかで、ラップをするっていう行為はアスリートとそんなに変わらなくて、瞬発力を大事にしています。
④影響を受けているアーティストや作品
――Minoriさんが影響を受けているアーティストや作品についてお伺いしたいです。
Jay-Z・KanyeWest・Araab Muzik・DJ Premierあたりの、USのHIPHOPアーティストからの影響が大きいです。
正直自分が昔からたくさん聴いているのはUSのHIPHOPで、日本のは仲間の曲以外はそこまで詳しくなかったりします。
彼らは単にラップをして曲を出すだけじゃなく、ビジネスとして大成功させていたり、ファッションを流行らせたりしていて。
音楽をやりながらちゃんとビジネスをやっているところが好きだし、自分も同じように仲間たちと活動して行きたいです。
楽曲制作にしても、彼らの曲には正解に近いものがあるから、教科書や参考書みたいな感覚で彼らの手法を取り入れています。
――音楽以外で、影響を受けている作品はありますか?
刺青やタトゥー作品からかなりインスピレーションを受けています。
思いたったら身体に入れているほど、昔から刺青やタトゥーが大好きで。
特に好きなのが彫國さんという彫り師の方の作品と、友達でもある彫拓の作品です。
――そうなんですね。刺青やタトゥー作品から受けたインスピレーションを音楽に活かすってすごいですね…!
刺青やタトゥー作品と音楽は別のものではあるけど、1からアートを作ってるっていう面では共通しているので、かなり影響を受けています。
「この線の引き方がこのドラムっぽいなー」と感じたり、「1本の線からこういう絵になるんだ、ビート作るときと一緒だな」と感じたりします。
⑤イベントオーガナイザーとしての活動について
――先ほども少しお伺いしましたが、イベントを運営するうえでこだわっていることを教えてください!
もともと「TOYBOX」で打っていた「ハウスパーティー」というイベントが今休止中で、6月から始動するイベントではライブバトルをしていきます。
ライブバトルというのは、ラッパーそれぞれに10分間のライブ時間を与えてパフォーマンスしてもらって、一番ホットだった人にビートをプレゼントするっていう試みです。
たくさんお客さんを呼べば優勝できる、とかじゃなく、ライブの質だったりイベント中の遊び方だったりを見て優勝者を決めます。
――盛り上がりそうですし、ビートを貰えるラッパーはもちろん嬉しいし、WinWinですね!
参加費が1,000円でノルマは無し、お客さんを呼んでくれたラッパーにはバックをきっちり出すのもポイントです。
ライブをしたい人は1,000円払えばできるし、お客さんを呼べるラッパーは稼ぐこともできるので、いいイベントになるんじゃないかなって思っています。
――最高ですね!ただ、ぶっちゃけそれだと収支がキツかったりはしないんですか?
正直、赤字になる可能性もあると思います。
でも赤字を続けることによって、結果的にそれよりもプラスのものが出ればいいと思っています。
例えば、ライブに出ることで知名度が上がって曲やサブスクで稼いだりとかですね。
ぶっちゃけイベントって、全員にノルマをつけたりすれば、いくらでも上がりを出すことってできるものなんですけど、こんなにラッパーが増えてるなかでそれをやるのは個人的には渋いなって感じていて。
そんなに友達が多くないラッパーからすると、ノルマってキツいじゃないですか。
――演者のことを第一に考えているんですね。
ノルマをつけて、そのお金を使ってゲスト呼んでってするんじゃなく、自分たちがゲストになる気持ちで取り組んでいます。
しっかりと良いイベントを続けていけば、絶対にお客さんが増えて将来的にはプラスになると思っているので、演者やお客さんのことを大切にしながらイベントを運営していきたいです。
⑥今の日本のHIPHOPシーンについて思うこと
――長年音楽をされているなかで、今のHIPHOPシーンについて思うことはありますか?
「そんなに有名じゃないけどHIPHOP関連のことで生活ができる人」がもっと増えたらいいなって思います。
例えばロックなんかだと、テレビとかには出ていないけどライブ活動で生計を立てていたり、楽器のレッスンをやって生活をしている人っていうのが普通にいて。
僕自身は一応ビートメイクやイベント運営で生計を立てているわけですけど、日本のHIPHOPシーンだとそういう人はまだあまり多くない印象です。
――日本のHIPHOPシーンがそこまで育ったら素敵ですね。
そうですね。HIPHOPを聴く人も他のジャンルに比べると少ないし、プレイヤーが聴いていることが多いなって思います。
今はまだ取り扱ってくれるメディアが少ないっていうのもありますしね。
売れ方も限られているというか、今ってみんなこぞって「ラップスタア誕生」や「FSL」で露出して売れて…って感じじゃないですか。
出たい人を否定するわけではないですけど、特定の「上」に従わなければいけない感じが、あんまり面白くないなって感じます。
――メディアが増えて売れ方も多様化していったら、みんなもっと「自由」にHIPHOPと向き合えるようになりそうですね。
間違いないです。
あとは、ビートメイカーとかミックス・マスターをだれがやったかまでチェックして曲を聴く人が増えたらいいなっていうのも思います。
今の日本のHIPHOPシーンだと、そこまでチェックする人は少ないのが現状で。
海外だと「この人がビートを作ってるなら」「このプロデューサーが手掛けたなら」っていう理由で曲を聴く人もたくさんいるんです。
日本もそうなってほしいし、そのためにも活動を続けてシーンに貢献していきたいです。
Minoriのおすすめ音源4選
数多くの楽曲制作を手掛けているMinoriさんですが、なかでもとくにおすすめの4曲を紹介します!
酔鯨 feat.S.R,Minori- Back to the basic
Minori:以前出演したエレクトロ要素の強いイベントから影響を受けて、HIPHOPのブーンバップに取り入れたいなと思って制作した曲です。
そのイベントに共演した酔鯨のアルバムに入ってます。クルーの3人で作りました。
レコーディングも、3人ともほぼ1テイクでいけて、作っててめちゃくちゃ楽しかったのが印象に残っています。
Minori - Hey Siri (Prod.Beatsniper)
Minori:師匠として慕っているBeatsniperさんのビートで録った曲です。
ベースが最高だし、全体的に超好きなビートでいい曲を作れました。
『Hey Siri』っていうキャッチーなタイトルにしたのもポイントで、リリックにも入れてるのでライブでやると誰かのスマホが鳴ったりもします(笑)
「撮ってる暇ないよ~」っていうちょっとした遊び心も入っています。
Minori - You Already Know (Prod.Minori)
Minori:セカンドアルバムのイントロのような立ち位置の曲です。
自分らしいビートで、自分らしいラップをしてるのが前面に出てると思います。
この曲を作り終わったときに、セカンドアルバムは自分のビートだけで作ろうって決めました!
Miss Tape「Tokyo Minutes (feat. Suigei & Minori) - Single」
Minori:ビートメイク・アルバムのジャケット・レコーディング・ミックス・マスタリングのすべてを多摩市で完結させた曲です。
DosCasaっていうブラジル在住ブラジル人のビートメイカーがプロデュースしてくれたんですけど、彼のプロデュース能力の高さが出ていると思います。
Minoriの音源はどこで聴ける?
Minoriさんの音源は、主に以下のサイトから聴くことができます。
らりすが思うMinoriの魅力
Minoriさんのことは、共通の知り合いから「何でもできて尊敬している」「すごく優しい」と取材前から聞いていたのですが、実際にお話させていただいてすごく納得しました。
ラップだけでなく、ビートメイク・ミックス・マスタリング・DJなどの幅広い技術があり、その技術を仲間やシーンのことを考えて使っているところに感銘を受けました!
「HIPHOP関連のことで生活ができる人を増やしたい」という考えを自分自身が体現しているのも、なかなか出来ることではないと思います。
【まとめ】Minoriは自由にHIPHOPと向き合うラッパー兼ビートメイカー
「自由でいること」を大切にしながら、楽曲制作やライブを精力的に行っているMinori。
USのHIPHOPをルーツとしながらも、日本のシーンに貢献すべく仲間を巻き込みながら積極的に動いています。
セカンドアルバムのリリースやイベントの始動を控えており、今後の活躍からも目が離せません!