楽曲制作やイベント主催で活躍中の、スポークン・ワード・プレイヤー『ハルタダイチ』。
鬱屈とした独特の世界観が魅力のアーティストです。
そんなハルタダイチさんに、経歴や活動に込めている想いなどを取材させていただきました。
ハルタダイチの経歴・学歴・出身地は?本人が大暴露!
学生時代のハルタダイチ
――幼少期や学生時代はどんな様子でしたか?
とにかく1人でいるのが好きな子供で、外で遊んだり友達と遊んだりするよりも、図書館で本ばかり読んでいました。
自分発信で動くのもあまり得意じゃなくて、いつも他人の様子を伺いながら行動していた記憶があります。
――本を読まれていたんですね!当時から音楽はお好きだったんでしょうか?
中学生頃までは人並みに流行りのJ-POPを主に聴いていたのですが、中学から高校に移るタイミングで兄の影響でHIP HOP系の音楽も聴くようになりました。
当時、兄によく「これ借りて来て」とメモ渡されて近所のTSUTAYAに出向く事があり、そのメモにKICK THE CAN CREWやRIP SLYME、RHYMESTERなどが記入されていたのを見て気になって聴いてみたのがきっかけですね。
当時ハマった曲はKICK THE CAN CREWの『地球ブルース〜337〜』や、キングギドラの『最終兵器』、とかですかね。まあわかりやすくノリが良くて韻の踏み方がかっこいい曲に熱中してました。とにかく有名どころはほぼ聴いていたと思います。
――結構ゴリゴリのHIPHOPを聴かれていたんですね…!
当時はそうですね!
そのときはスポークン・ワード(ポエトリー・リーディング)というジャンルのことはまったく知りませんでした。
大学生の頃、所属していた演劇部で仲良くなった公社流体力学という親友に、不可思議/wonderboyさんの存在を教えてもらったのがきっかけでした。
――不可思議/wonderboyさんがきっかけでポエトリー系を聴くようになったんですね。
一応、入り口としてはそうですね。
当時はもうガチガチに韻やFLOWなどを駆使した「わかりやすくてカッコいい」ラップ・HIPHOPの曲ばかり聴いていたので、音楽に乗せて詩を紡ぐこの手法はかなり新鮮に感じました。
「こういう表現もあるんだ」と。
今みたいに、HIPHOPというジャンル一つとっても多様化が進んでいるような時代ではなかったので結構衝撃的でした。
社会人としてのハルタダイチ
――今はスポークン・ワード・プレイヤーとしての活動をしながら、どんな生活を送っているんですか?
まあ、地道に会社員として働いております。
新卒で入った会社は1ヶ月半で辞めてしまって、そこからはバイトや派遣の繰り返しだったんですけど、何とか3年前くらいから今の会社に就きまして、漸く落ち着いた感じですね。
具体的な業務内容はちょっとお話しできないんですけど、上場している会社ではあります。
――上場しているんですね!すごい!
ただ、自分ADHD持ちで障がい者雇用なので…少し特殊ではあります笑。
――私も発達障害の診断を受けているのですが、会社で働くのって結構大変だったりしますよね…。
そうですね、どちらかというと仕事や勉強は苦手なタイプです。
ただ、イベントなどを通じて結構人と打ち解けられることは多くて、そこは周りの環境に恵まれているなぁと感謝しています。
仲の良いアーティストについても、ぜひ後ほどお聞かせください!
スポークン・ワード・プレイヤーとしてのハルタダイチ
――スポークン・ワード・プレイヤーとして活動を始めた経緯について教えていただきたいです!
初めて人前でパフォーマンスをしたのは6~7年前くらいですね。
20代半ばに差し掛かったころに、「何らかの形で自分を表現してみたいな」という気持ちが芽生えてきて。
楽器や即興のフリースタイルはできなかったんですけど、詩くらいなら書けるかもって思ったんです。
そのときに、ネットでオープンマイクの存在を知って、当時のTwitterで探して実際に行ってやってみたって感じです。
※オープンマイク:マイクを置いて参加者を募り、ジャンルを問わずパフォーマンスを行うイベント
――なるほど!初めてのオープンマイクはどうでしたか?
実は初めて参加したオープンマイクが関東では無く大阪の心斎橋だったんですよ…これ何でかって言うと行くぞって決めた時によくよくフライヤーを見てみたら、場所が心斎橋と記されていまして笑。でも折角なら遠い場所でチャレンジしてみたいなと思いまして。それで当時住んでいた埼玉県からパフォーマンスをするために大阪まで行ったんです。その日は参加人数が2〜3人と少なかった事もあり、また関東からわざわざ来てくれたというお情けで「MVP」まで頂きました。
それもあってか、初めてにしては結構いい反応をもらえて、「人前で表現するのって楽しいな」という気持ちを抱きました。
――初めてでMVPはめちゃくちゃ嬉しいですね!
そうですね、嬉しかったです。
それから間もない頃に、知人から新宿の歌舞伎町にある「無人島」というBARにて週1でオープンマイクが開かれている事を聞いて、そこにも参加したんです。
そのときに、店内にいたとあるクリエイターさんから「あの朗読は金が取れると思うよ」という言葉をかけてもらったんです。
今思うとお世辞だったのかもしれないですけど、当時はその言葉がすごく嬉しかったです。
ハルタダイチに楽曲制作のこだわりや影響を受けたアーティストを質問してみた!
ハルタダイチさんに、以下に関する質問をさせていただきました!
- スポークン・ワードの魅力
- 楽曲制作に込めているこだわり
- 影響を受けたアーティストや漫画
- ポエトリースラムのイベント『果詩合』について
- シーンに対しておもうこと
- 今後挑戦したいこと
いわゆる「ポエム」ではなく、自分の想いにとことん向き合って詩を紡ぐのが好き
――6~7年間にわたってスポークン・ワード・プレイヤーとしての活動を続けられているとのことですが、心境はいかがですか?
正直、「楽しいからやっている」という感覚はあんまりないです。
できることがこれしかないからやっているというか。
楽器ができる人は楽器をやればいいし、即興でラップができる人はそれをやればいいと思うんです。
自分の場合は、それが詩だったと言う感じですね。
――HIPHOPを聴くものの、ラップをするというわけではないんですね。
全くしないという訳でもなく、詩などを書く上で手法としてラップを用いる事もあるのですが自分を「ラッパー」だと認識した事は余り無いですね。現にサイファーとかは行かないしMCバトルも最近は余り見る事が無くなりました。
ラップ自体は好きなんですけど、瞬時にフリースタイルしながら韻を踏むとかは多分できないんですよね。滅茶苦茶練習すれば人並みには出来るかもしれないんでしょうけど、まず「自分自身を必要以上に誇示する」事が極端に苦手な性分でして…。だからMCバトルも性格的に合わないんですよね。
それよりも、自分が思っていることをすごく深く考えて、洗練した状態のものを書いて読むのが好きなんです。
自分にできることがそれだから、そのスタイルで継続的に活動しています。
――同じ「言葉を使った表現」でも、即興ラップとスポークン・ワードだとかなり違ってきますよね。詩は結構たくさん書いているんですか?
いえ、毎日書いたりはしていないです。
詩をやっていると話すと「毎日noteとか書いてるんですか?」って聞かれたりするんですけど、そういうのは個人的にあんまり好きじゃないです。
ただ書いて満たすだけだと、自慰行為になっちゃうじゃないですか。かなり生意気な事を言わせてもらうと「芸術」とか「エンタメ」って全ての始まりは「自慰行為」なんですよ。それを「第三者と気持ち良く共有する」=「SEXにする」のが「作品にする」「ステージ上で表現する」事だと個人的には思っていて。まあ「俺は他人の事どうこうじゃなく自分の道を貫くぜ!」的な方も満たされてるのなら、それはそれでOKだとは思いますけど。
ただ書けばいいやっていって思ってこなしていたら惰性になってしまうし、それこそよく嘲笑の表現とされる方の「ポエム」のまま終わってしまうだろうなと。
僕はそれが嫌なので、書く時は「どういう意図で書くのか」 とテーマやタイトルをしっかり決めてから書いていくようにしています。
ありきたりではない、自分が歌う意味のある作品を創っています
――楽曲を制作する際のこだわりを教えてください!
ありきたりなテーマになっていないか、自分が歌う意味があるのか、というのを徹底的に自問しながら作っています。
といっても、僕自身そんなに大層な人生を送ってきたという自負があるわけでもないんですが。
以前は結構よく発達障害の界隈に顔を出していたんですけど、そこには、痛ましい虐待を受けた人だったり、いわゆる「毒親」に育てられた人も多くて。
様々な環境で育って、多様な価値観を持つ人がいて、自分の人生や考え方が全てではないんだなっていうのを良くも悪くも学ばせてもらったんですよね。
その経験則が詩を書いていく上でも自分の中でかなり軸になっていますね。視野を狭めずに多種多様のテーマで書いていきたいという思いは強いです。
だからこそ、ありきたりな曲にするのは絶対に避けたいです。
――そうなんですね…!楽曲聴かせていただきましたが、オリジナリティの強い作品だなと感じました。
ありがとうございます!
正直、いわゆるラッパーさんたちの曲を聴いていると、結局自分を誇示している事に終始しているなぁと思ってしまうんですよね。勿論ラッパーさんはスタイル的にそうしないとやってられないからってのもあるんでしょうけど。
意地悪な事を言うと、5曲とか10曲とか入っているEP・アルバムを聴いていても、どれも根本的に言いたいことは同じなんじゃないかなって思っちゃったり。
僕は先程も話したように自分を誇示するのも苦手だし、同じような事を何回もやりたくない性分なので、詩や曲を作る時は1つ1つに明確なテーマを決めるようにしています。
今はアルバムを制作しているんですけど、やはり「全ての曲が似たり寄ったりになっていないか」という点に関してはかなり気を付けていますね。
――そのほかにこだわっているポイントはありますか?
あとは、トラックに乗せる言葉がトラックメイカーさんの意図にしっかり沿っているか、というのも意識しています。
僕自身にはトラックを作る能力はないので発注しているんですけど、そのときには曲のテーマを伝えたうえで「こういうトラックが欲しい」とはっきりお願いしています。
せっかくトラックを作ってもらったり選んでもらったりするからには、ちゃんと期待に応えなきゃいけないなとは強く思いますね。
喜怒哀楽以外の5つ目の感情を詩にして、聴いている人にぶつけたい
――表現をされるなかで、どんなところから影響を受けているんですか?
音楽的な意味合いで言うと、キエるマキュウのMAKI THE MAGICさんの影響を強く受けています。
2023年にリリースした曲『坩堝』は、RECの際に共演した多嘉喜さんから「MAKI THE MAGICさんが乗り移ってましたね」と言われた程です笑。
人間臭いというか、技術どうこうより本能でラップしてる感じがすごく好きで。
吐き出すワードが唯一無二で、オリジナリティがあるところがとても素敵です。
――そうなんですね!アーティスト以外で影響を受けているものってありますか?
今は刊行されていないんですけど『ガロ』という漫画雑誌の影響をかなり受けています。有名な方だと、蛭子能収さんの漫画が掲載されていた雑誌です。
今の時代では載せられないような、鬼畜系というか、倫理観が欠如しているような漫画がたくさん掲載されていて。
「ガロ系」っていうジャンルで呼ばれたりもするんですけど、僕の作品が暗い系になるのはガロ系の影響が強いですね。
――ガロ系というジャンルがあるんですね!知らなかったです。
僕は正直、人並みの充実した人生を送れたわけじゃないので、物事の見方がどうしても捻くれてしまうんですね。
人並みの常識とか幸せみたいなのに、あんまり共感できなくて。
ガロ系の漫画を読んでいると、「人間の本質ってこういうものだよな」って思えて、メンタルを保てたりします笑。
20代半ばの頃にハマったんですけど、最近また集め出しました。
――確かに、ハルタさんの曲からは暗めな印象を受けました。
喜怒哀楽以外の5つ目の感情を詩にしてぶつけて、聴いている人間の困惑している表情を想像するのが好きなんです。
感動や勇気を与えたいとか、聴いている人のことを応援したいとか、そういうことを思って曲を作っているわけではなくて。
もちろんこのスタイルは大衆受けはしないだろうけど、売れるためにやってるわけではないので。
曲を聴いて気持ちよくなりたいならそのへんのアイドルとかでいいじゃないですか、僕にしかできない表現がしたいんです。
このような作風で活動を続けていたら多嘉喜さんから「ハルタさんは『栄養価の高い憂鬱』を作り上げる才がありますね」と評されました。その時は心から「なるほどなぁ」と我ながら感心してしまいました笑。
ポエトリースラムのイベント『果詩合』について
――ポエトリースラムのイベント『果詩合』を主催された経緯を教えてください!
実は、このイベントを自分の活動の最後にしようと思っていたんです。
いろいろあって何もかもが嫌になってしまった時期があって、「最後にいろんな詩人の方を呼んでイベントを打って気持ちよく終わろう」と思っていて。
――そうだったんですか!?
結果的には、3回目の開催を控えているところなんですけどね。
最後にするはずだったイベントが、思いのほか盛り上がっちゃって。
日高屋で打ち上げをしたんですけど、そこにもかなりの人が来てくれたんです。
そこで、尊敬している詩人の大島健夫さんという方から「打ち上げをしたくなるっていうことはそれだけ素晴らしい大会だったってことだよ」って言ってもらえて、もうちょっと続けてみようかなと思えるようになりました。
――素敵です…!結構いろいろな方と交友関係を深められていますよね。
ありがたいことに、そうですね。
特に仲良くさせて頂いてる方や尊敬している方は、大島健夫さん・葛原りょうさん・多嘉喜さん・もりさん・そにっくなーすさんなどです。
シーンに思うことはあるが、今は自分が好きなことを純粋に楽しみたい気持ちが強い
――ざっくりとした質問ではあるんですが、今のシーンについて思うことはありますか?
以前は、盛り上げていきたいなぁという思いはかなり強かったですね。
スポークン・ワードやポエトリーリーディングって、事前に書いてきたものを読んでパフォーマンスをするので、表現としてどうしても一段下がってしまう側面があるというか。
そりゃ即興でラップする人を見ている方が盛り上がるよなと感じてしまう時もあるんです。
このジャンルを世に広めるには、もっと音楽的な要素が必要なのかなって考えたりもします。
詩というパフォーマンスを大衆化するにはまだまだ時間がかかるけど、競技人口がもっと増えて盛り上がれば素敵だなとは思います。
まあでも今はそういう堅苦しいことはあんまり考えずに、自分が好きなことやればいいやって感じで活動しています。
2024年はアルバムを完成させてワンマンライブを開催したい
――これから挑戦したいことについて教えてください!
一番は、自分が納得できるクオリティのアルバムを出して、ワンマンライブをすることです。
規模が小さくても、いわゆるリリースパーティーを開催してみたいです。
――それはめちゃくちゃ楽しみです…!
詩以外でも、新しく始めたいことがあって。
育った地域が一緒なのもあって、昔から爆笑問題の太田さんが好きなんです。
太田さんの奥さんが経営している事務所で、エンターテインメントを学べる「タイタンの学校」っていうのがあって、今年の5月から通うことにしました。
小学生の頃はお笑い芸人になるのが夢だったくらい、エンターテイメント系に興味があって。
芸人コースではなく一般コースに通うんですけど、文章の書き方・ラップ・演技など、いろんなことを学べるみたいで面白そうだなって。
――初めて知りました!大人になってから学校に通うのってなんかいいですね。
今までの人生で「学校」に対していい印象がなかったので、一生に一度くらいは学校というものを楽しんでみたいなって。
あとは、MPCっていう、パッドをたたいて音を出す楽器を習っているので、今後スポークン・ワードと紐づけられるようになったら面白そうだなって思います。
リリックが光るハルタダイチの音源!絶対聴くべき3曲を紹介
ここでは、ハルタダイチさんのおすすめ楽曲を3つ紹介します!
『不意に咲く華』
ハルタダイチ:「自殺」という重いテーマをどれだけ深く掘り下げて詩を作れるだろうか、という思いから作り上げていきました。
以前に「自殺」をカジュアルに取り上げてる曲が話題になっていたことがあり、「何でもかんでもオシャレに仕上げれば良いってものじゃない」という捻くれ精神をもって制作しました。
『坩堝/Utopia』
ハルタダイチ:尊敬する詩人でありラッパーの多嘉喜さんとの共作です。
「坩堝」は違う境遇で育ったものの「詩」を通じて出会い、混ざり合って意気投合して熱いコラボを繰り広げている我々自身の事を力強く歌った曲となっています。
「Utopia」は強固な居場所を探し彷徨い求める我々人間へのアイロニー的な楽曲となっています。
どちらにせよこの2曲は多嘉喜さんがカッコいい所が目玉です。
ハルタダイチの音源はどこで聴ける?
ハルタダイチさんの音源は、主に以下のサブスクで配信中です。
らりすが思うハルタダイチの魅力
スポークン・ワードには全く知見がなかったので、ハルタダイチさんの楽曲は非常に新鮮でした。
お話しする前に楽曲を聴かせていただいたので、「どんな方がこういった世界観の曲を作るんだろう…?」と興味津々で取材させていただきましたが、語彙力がとても豊富で、自分の世界観を持っている方だなと感じました。
アーティストとしての意識が高く、自分に対してもシーンに対しても確固たる考えを持たれている印象が素敵でした。
また、私自身も「言葉で表現する」という部分からHIPHOPに入ったので、スポークン・ワードについてももっとディグっていきたいなと思うきっかけとなりました!
ハルタダイチは音源リリース・イベント主催など活躍中のアーティスト!
楽曲のリリースやポエトリースラムイベントの主催など、スポークン・ワード・プレイヤーとして活躍を広げるハルタダイチ。
「自分にしか紡げない詩」をとことん追求する唯一無二のアーティストです。
現在はアルバムを制作中とのことで、今後の活躍からも目が離せません…!